【67】歯医者の言い分 

歯を治療すると、虫歯が深ければ深いほど時間も費用も負担がかかります。保険では扱えないセラミックやインプラントなどは、保険の治療費のおおよそ10倍以上の費用がかかります。なるべく同じ箇所の再発はしたくないしさせたくないと思うのが普通です。

私は、よく例え話で患者さんに次のようにお伝えします。今、目の前の机の上に一つの美しい花瓶が置いてあったとします。この花瓶は地震や災害や予想外のできごとが無い限り一生割れずに、その美しい形を保つことができます。この花瓶とお口の中に入れた人工物「歯」を比べてみましょう。どちらも人工物ですが、私たちの歯は、上の歯と下の歯が毎日何度もぶつかりあい、磨り潰しあい、時には噛みしめ、食事により熱い物や冷たい物、甘い物、辛い物、酸っぱい物にさらされる大変に過酷な環境にあります。これは机の上の美しい花瓶を毎日ハンマーで叩いていることと同じです。私たちの歯は天然の歯でも、欠けたり虫歯になったり歯周病で動揺してきたりしながら、治療に来られた今の状態になるのです。どんなに優れた素材を使って補修、修復したとしても、人工物は決して天然の歯に勝るものではありません。

極端な話ですが、胃がんの手術を例えとして考えてみようと思います。がんを手術で摘出した場合、お医者さんは全力でオペにあたり、すべてを取り除きましたと仰います。もちろん開腹手術をした患者さんは通常の生活に戻るまでに時間もかかりますが、その後、病気が完治するか再発するかどうかは、その人の環境や生活スタイルにも影響し、その時点ではわかりません。胃ガンの再発の保証は2年だと保証する医療があるでしょうか。もちろん医療者側は全力で治療し再発が無いように祈っているのです。そしてお互いに万全を期しても残念なことに再発してしまうこともあります。

歯に対するある一定の補綴物(クラウンなど)に関して、保険制度で、「この歯は2年保証します」ということがおこなわれています。前述したように歯に一切の力がかからなければ、その歯は花瓶と同じように、長い年月美しく無傷でその姿を保つことができるでしょう。しかし、歯は「噛む」という機能することが必要です。その機能がなければ身体のバランスや中心力が欠如し、身体のいろいろな部位の痛みを作る可能性が出てくることは、まだ多く知られていないのが現状です。医療費は嵩む一方です。

貴方は目には見えない、数値では表せないけれど感覚を重視する職人が作る自然の法則のなかに生きますか。それとも見た目重視の経済を中心とする矛盾のなかで生きますか。

歯の治療が終わり被せものを入れると治療は終わったと思う患者さんにお伝えすることがあります。
「今はマイナス1000だったものがゼロになっただけでプラスになった訳ではありません。今後そのゼロをなるべくゼロで維持することが大事です」と……。
そのためには、定期的な歯の周りの洗浄や、かみあわせのチェックはもちろんのこと、身体の使い方や心の持ちようも大切なのです

インプラントの是非
インプラントについても、必要かどうかは患者さんによるといえます。同じ位置に埋めたとしても、患者さんの個体差でそれぞれ善し悪しが決まるのです。お口の中の条件はもちろんですが、人混みが苦しいなど感覚がとても繊細な方や、身体に歪みがあっても体幹が弱く歯でバランスを取っている状態の方には、インプラントは不向きといえるでしょう。

そして今、高齢者の介護施設などでは、寝たきりの高齢者が、昔入れたインプラントの歯が割れたり取れたりして、インプラントがむき出しの状態になり、歯ぐきをかんでしまい血だらけになるなど、後のメンテナンスに苦戦している現状もあることを知らなければなりません。インプラントは沢山の種類があり、その種類によって器具も違ってくるため即座に容易に外せないという現実もあります。

どのような治療も、昨今の高齢化社会では介護や人の補助が必要となったときにも対応できるような、先をみた治療が必要になってきていると感じています。