【74】口腔育成2

昨今、小児の歯科検診に伺うと、残念ながら本当の意味で健康で健全な歯をしているお子さまはとても少なくなってきていると感じます。子どもの歯は本来、歯と歯の間に空隙があってこそ、大人の歯に生え替わったときに良い歯列となります。

しかし、ほとんどのお子さまの乳歯は、綺麗にくっついていて歯と歯の隙間がなく、尚かつ、一番前の歯がV字に捻れているという状態です。さらには先天性に乳歯が欠如している場合も多くみられるようになってきました。

また、歯のかみ合わせも異常なお子さまが多く見受けられます。かみ合わせの状態は、実は、身体の状態をあらわしているともいえます。形態異常は機能異常に繋がりますので、片足立ちやスキップができないというお子さまが目立ってきています。

子育て環境が歯並びに影響する
歯並びが悪いと矯正治療をしますが、今までの矯正治療とは違った要素が必要であるように思います。現在、歯科ではマイナス1歳からの歯科治療という考え方で、お母さんの栄養や姿勢を含む「生活スタイル」に介入して、なるべく良い状態に戻したいといろいろなアプローチをしています。なぜなら母親の食生活や精神状態などが胎児に影響を与えていますし、お腹の中にいるときから小さな歯牙の元が形成され準備を始めるからです。胎児期、乳児期の一つひとつの成長発育のステップは、脳や口腔周囲筋の発育にとってとても大切なのです。

最近、幼児期から電気製品と接触する機会が増え、またペダルのない小さな自転車にまたがっている姿をよく拝見するようになってきました。バランス感覚を高めるトレーニングとしては有効ですが、骨盤の成長や、人間の構造的なことを考えると、実は、あまりお勧めできません。自転車のサドルの形状を考えると、くさび作用により骨盤を開いてしまうため、直立姿勢や歩行に支障をきたす場合もあります。成人ならまだしも、子どもの成長発育期にそれを取り入れるのは、とても注意が必要です。

医療と環境のバランスが鍵に
そのように、生活環境が昭和の時代とは180度かわった状態にあるために、人間が退化してきているのですが(考え方によっては進化してきているともいえる)、我々医療者が治療としてどこまで介入すべきかは、いつも悩ましい問題であり、介入方法や深度は患者さんによって異なります。その方の環境を考慮しないと快方には向かいません。

以前、かみ合わせの調整をした患者さまで、「朝起きると頭が痛い」とおっしゃる方がいました。もちろん、かみ合わせの調整が甘かったところもあるのですが、よく話をうかがうと、その方はなんと毎日ソファで寝ているというのです。夜はベッドか布団に入って休んでいるものだとしか考えがおよばなかった私は驚きました。ソファという水平ではないところに、何年も寝ていると、自然に水平をとろうと身体は変化してしまうはずです。そのため、さまざまな症状が出るきっかけになったのではないかと考えました。かみ合わせと身体の調整をはかり、今は症状が全くなくなり快調です。

このように、治そうという医療と、壊そうとする環境、その両者を追い続けることが治療の鍵となりそうです。しかし、その差は開く一方で、どこまでいけばよいのだろうかという時代の変化を感じざるを得ません。

当医院は、かみ合わせを中心に骨格構造など全身をみる齒科醫院です。大きな病院に検査で入院したとしても「歪み」に対してアプローチするお医者さんと出会える機会は少ないでしょう。その違和感や症状は、実は、日常生活やその環境など、身近で些細なことからおきているのかもしれません。