【81】お口と身体のつながり

「お口は健康の入り口である」と、以前、お話ししたことがあります。
人間にとって、感情を言葉に現し、栄養を取り入れる入口であるお口。
その健康を維持することは、身体全体の健康を手に入れることに繋がります。

お口の中の環境をいつも綺麗に、そして、虫歯や歯周病などがないよう整えておくことはもちろん、歯の根の中にある炎症も注意が必要です。
自覚はなくても膿んだり感染したりすることにより、細菌が血管を通って身体中に回ってしまうことがあります。
外からは見えない神経を取った歯の根の先にも炎症がないかどうか、定期的にチェックしておくことが必要です。
赤ちゃんを望む女性、妊娠する可能性がある女性は、特に注意が必要です。
まだ妊娠が確認できない時期でも、赤ちゃんの乳歯の大元は歯を作り始めているのです。
歯牙を構成する歯周組織は、お母さんのお腹の中の胎児の段階から成長を始めて、乳歯では胎生6週から、また永久歯では胎生20週目位から発生を始めます。
妊娠初期には、つわりなどの影響で歯磨きがしづらかったり、ホルモンの変化により歯茎から出血しやすくなったりしますが、放置せず歯周病にならないようにしなくてはいけません。
そのような大事な時期に母親が歯周病菌に感染していたり、胎盤を通過するトランス脂肪酸などを多く含む食品を食べたりしていると、その後、さまざまな問題が出てくる場合があります。
歯科的には妊娠初期には虫歯の治療も限られたものしかできません。
麻酔などの薬剤も極力使用しない方がよいと考えるからです。
そのため妊娠する前から栄養を整え準備をする必要があります。
バランスを見ながら治療をおこなうことになります。
また、妊婦さんの姿勢や生活習慣、感情の変化などが、胎児の位置や状態と関係していることをご存じでしょうか。
食事内容とともに配慮して、大切に過ごす必要があるでしょう。
妊婦さんが歯周病になると、早産を起こしやすくなったり、低体重児が生まれる割合が高くなるといわれています。
通常、出産が近くなると子宮でプロスタグランジンという物質が分泌されることで分娩が始まりますが、歯周病で炎症が拡がると、抑制するために同じ物質が作られてしまうからです。

歯周病だから糖尿病?糖尿病だから歯周病?
もう一つ、歯周病と糖尿病の関係についても触れておかなくてはなりません。
一見、歯周病と糖尿病はまったく関係ない病気のように思われるかもしれませんが、歯周病は以前から、糖尿病の合併症の一つといわれてきました。
実際に歯肉炎や歯周炎を起こしている方には糖尿病の割合が多いという調査結果があります。
そして、逆に歯周病になると糖尿病が悪化するというデータもあることから、双方の改善を図ることが必要です。

また、口腔内からの感染がある場合には、心臓の弁や腎臓、血管内の動脈硬化のプラーク※など、口腔内細菌が身体中に飛び火していることが明らかになってきています。

歯の治療やメンテナンスは後回しにされがちですが、こういったことからも、すべての病気を治すためには、まずは歯の感染をなくすことが大切であると、最近は考えられるようになってきています。
大きな病院では入院の前に、まずは歯を治療をしておくようにといわれるような時代に入ってきています。
歯を定期的にチェックして洗浄することは、他の病気の発生のきっかけをもなくし、健康を維持するために必要なことなのです。