【72】五感の喪失

五感とは、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の感覚の総称ですが、現代の生活では少しずつ失われ始めているように感じます。その理由は、おそらく二つ。一つは環境の変化により五感を必要としなくなってきたことです。たとえば、調べものをするときに専門書を開き、「確かこの辺に書いてあったんじゃなかったかな」と、パラパラページをめくり、きわめて感覚的に辿り着くことができました。しかし、電子ブックや電子辞書では、厚みや手触りの感覚がありません。直接そのページや単語を検索するなど、時間短縮して見つけられるかもしれませんが、五感を必要としません。手や指の感覚(触覚)を使うことなく、頭脳で指示することが必要になってしまったということです。

ファイルを書類棚に整理するときも、アナログでは書類を系統立てて色分けしたり大きさを変えたりするのに触覚も視覚も使い、一目瞭然です。ただし場所を取ります。デジタルではパソコンのフォルダ内に格納し、その位置は私たちの頭の中にあります。フォルダの色分けはできるものの、視覚や触覚を使わずに整理できてしまうのです。

対人間関係にしても、友人との対話や仕事の交渉事など、大抵のことがメールのやり取りで事足りてしまいます。時と場合にもよりますが、やはり、直接相手と向かいあって話すのと違い、相手の状況や状態が読めないので、意図せずお互いに相手を傷つけてしまうこともあるかもしれません。

子どもの喧嘩も同じです。互いにちょっと小突いたりしながら、その力加減を触覚で体験し、「これくらいなら大丈夫」「これ以上は危険だな」と、痛みの経験からわかっていたものです。しかし、ヴァーチャルな喧嘩は、痛みを考慮して力加減することはなく、突然にキレてしまうことも。そして、リセットして、またすぐ復活させることができてしまうのが怖いところです。

最近、特に気になるのが「臭い」。人が通った後に強烈に残るほどのきつい香りの洗剤や柔軟剤が主流のようで、あちこちで同じような臭いを感じます。敏感な方は電車の中や人混みは辛いのではないでしょうか。ベランダ越しの隣家の洗剤の臭いが強烈で、ベランダに出られない方もいらっしゃいます。

味覚は、その人の栄養状態によって異なり、ミネラル(亜鉛)のバランスが影響します。唐辛子を山ほどかけても辛くないという味覚異常の方も多いようです。

五感を必要としない生活の場が提供されることで、人が物化していくということに注意を払わなければならないのではないでしょうか。

かみ合わせがずれ身体が歪むと「感覚」も失われていく

五感が失われてきているもう一つの大きな原因として、身体の歪みが考えられます。歯のかみ合わせの中心軸は頸椎の2番あたり。歯のかみ合わせが大きくずれると体に歪みがおこり、頸椎がずれます。臭いを感じない、耳が聞こえづらい、手がしびれる、視力がぼやけるなどの症状が出てくることもあります。歯のかみ合わせがずれたり、身体が歪むと五感の感度が落ちてしまうのです。

時代によっていろいろな流れがあるので、その流れに乗って生きていくことが必要だと思いますが、大切なことを忘れてしまいがちです。アナログからデジタルの時代への移り変わりにより、情報は地球の裏側からも瞬時に届き、世界に拡散することができるようになりました。このことはとても素晴らしいことだと思います。しかし、おかげで誤った情報が流れてしまうことも増え、その識別には、情報を受け取る側の「見抜く力」が必要になっています。そのためには経験値を高め、五感の感度を鋭くすることです。左右バランスのとれた骨格(正しい歯のかみ合わせ)となるよう整えて、流されてしまわないようにしたいものです。