[107]プールで“泳ぐ骨”に触れる

 最近、週に1度はプールで3000mほど泳ぐようにしています。泳ぐことが好きなことと、健康のために続けていますが、およそ1時間10分ほど泳ぎ続けるので、いろいろな問題が生じます。水泳は全身運動なのでよいという考えもあれば、運動しすぎると活性酸素がたまって細胞の老化を加速するとか、塩素の水のなかに1時間以上、身体を漬けておくなんて、経皮吸収を考えると身体に悪いなどという考えもあるわけです。なにを重視するかで、まったく反対の意見になりえます。

 
これは水泳だけでなく、世の中で起こる事象すべてに同じようなことがついて回ります。なにを重視して考えるかで千差万別、十人十色とはよくいったもので、物事をどう考えるかで、その影響はまちまちです。私は水泳の優先順位を運動ととらえているので、少し心拍数を上げてストレスが発散でき、歯科医特有の仕事の不良姿勢がストレッチできればよいというのが一番の目的です。二番目には、身体の使い方で起こるいろいろな現象を実体験しています。三番目には泳ぐ前のコンディションづくり(サプリメントなどの体感)でどんな違いが出るのかを実証しています。
3000m泳ぐには、単純に計算すると、25 mプールを60回往復することになります。100m泳ぐのにターンは3回しますので、3000m泳ぐとクィックターンを119回もすることになるのです。これだけでんぐり返しして、身体に負担を掛けると、ある一方向に身体が歪んでくるのがわかります。ターンするときは、北半球では左に回った方がタイムは早いと聞いたことがありますが、私はタイムを争っているわけではないので、最近ではターンも、左回りと右回りを交互にするようにして、身体の歪みの解放を図っています。またクロールの呼吸も、左右対称で泳いだときと、片方だけで泳いだときの体感を見たりしています。歯科医師を天職としているので、良いのか悪いのかわかりませんが、どんな世界でも歯科と照らし合わせて考えてしまう職業病があります。実体験したことは身体に染みついているので、忘れることがあっても、そのときの身体の使い方を思い出せば、いろいろな考察が生まれ、原因と結果を実証できるようになります。それが歯科治療にとても役立っています。

首を固定する歯のはたらき

 総合的に考えると首が重要だということに気づかされます。身体のバランスは首が、まさにネックなのです。駄洒落ではなく、そう痛感させられます。首がぶれると身体がぶれ、ぶれがある領域を越えると、肘まで痛くなってくるわけです。しかしそのような状態になっても、どうしたら泳ぎ続けられるかを試行錯誤しながら工夫していくと、さまざまな改善案が出てきます。それを実行してみてうまくいくと、痛みは消えてしまいます。
最終的になにが一番大切かというと、首の可動域を制限しているものの一部は、歯の位置やかみあわせであって、とくに6番目、7番目の歯が首根っこになるので重要であるということです。そして虫歯は通常、大臼歯という、この6番目、7番目の歯から起こることが多いのです。治療という名目でその歯を削ってしまったり、セラミックに置き換えたりしますが、製作する歯の高さや形態には、とても注意が必要です。そこがかみ合わないと、身体全身がおかしくなるからです。首の位置を歯止めしているのは結局歯なので、そこが緩むと身体のバランスが崩れだしてしまうからです。
こんなことを考えながら3000mを泳いでいると、30分ごとに交代するプールの監視員が一巡して、最初の人が戻って来ることもあります。「この人、何回でんぐり返しているの?と呆れられている?」と、被害妄想が浮かんでくることもありますが、逆にふと自然に無心になれたり、うまく〝泳ぐ骨〟を掴んだりしながら、苦しみのなかにも楽しみを見つけながら泳いでいます。