健康は歯から

 

 食べ物をかみ砕くお口の中にある32本の歯の呼び名は、形や機能によって分かれています。「切歯」は前歯の4本でフルーツや野菜などを切る歯。そして、前歯の両隣の「犬歯」は糸切り歯といわれ、肉を食べるときに引き裂く歯です。犬歯から奥の4、5番目の歯は「小臼歯」で、小さな臼のような歯。さらにその奥の6、7番目の歯は「大臼歯」で大きな臼のような歯です。いずれも臼歯は穀物を擦り潰すための臼のような形をしています。漢字や発音、語意、語源などには、さまざまな関係性があるのではないかと感じています。

身体機能に影響する歯

身体の解剖名称で、「歯」の字がつくところを探してみると、第2頸椎に「歯突起」があります。なぜ歯突起と名付けたのでしょうか。骨の形は突起状になっていて、一番目の頸椎の中に軸として入っています。この構造のお陰で、顔を右に向けたり、左に向けたりして首を回すことができるのです。

歯突起と歯の因果関係については、整形外科のグゼーという博士が発表したクォードラント理論があります。簡単に説明すると、歯突起が噛み合わせの中心軸になるということです。つまり、歯を失って噛み合わせたときの高さが低くなってしまうと、第2頚椎が歪み始めてしまうということです。頸椎2番の位置がずれると、ほかの頸椎にも歪みを移してしまうので、結果的に全身症状がでてくるのです。

そのほかの「歯」の字がつく解剖名称を探してみると、脳の中の記憶を司る海馬の一部に「歯状回」、小脳の一部にも「歯状核」があります。学習や記憶に重要な役割を果たす海馬の歯状回で、盛んに産生される新しい未成熟な神経細胞が、幼児期健忘(3才くらいまでの記憶がないこと)に影響を与えているのではないかといわれています。これについては、トロント大学およびトロント小児病院の Paul Frankland 教授らと藤田保健衛生大学総合医科学研究所システム医科学研究部門の宮川剛教授らの日加共同研究チームの研究によって明らかにされました。それは、ランニングや抗うつ薬の投与などで新しい未成熟な神経細胞を増やすと、記憶の忘却が促進されるというのです。

また歯状核については、東京医科歯科大学医学部耳鼻咽喉科学教室の主任の渡辺教授らの研究の文献を参考にすると、「大脳皮質から小脳歯状核への入力について、 歯状核細胞は大脳皮質のうち、前運動野と体性感覚野から最も強い入力があり、後者から42%の歯状核細胞において興奮性入力がみられたとし、そのほか、前頭葉も重要な入力系であり、総じて歯状核細胞では大脳皮質の広汎な部位からの入力の収束が見られるとしている」とあります。ちょっと難しいですが、「歯状回」も「歯状核」も、その機能について未だ多くが解明されていません。しかし、よく噛める人は、記憶がしっかりしていて認知症になりにくいとか、バランス感覚や運動機能もしっかりしていることからも、記憶領域や運動領域に「歯」が関係していることは間違いのない事実だと思います。

まずは歯から

私は常々、「健康の大元は歯」なので大切にしてくださいと話しています。なぜなら、身体の動きの大元は首であり、さらにその大元は歯だからです。発生学的にも、消化管である口腔は早い時期に作られることからもわかります。

 日本では歯科医師は虫歯治療や歯周病治療、顎関節治療など、お口の中だけをみるのに精一杯ですが、病気を治すためにはまず歯を治すべきと既に海外では言われています。実際に口腔以外の病気でも、歯を治療すると不思議な結果がでてくると、私は感じています。

  健康は歯から2

 歯の表面のエナメル質は最終的には水晶とほぼ同等の固さになるのですが、胎生7週を迎える頃、エナメル質の元が発生します。健康の一番の源であり、要、また動物が生きていくために絶対に必要な歯は、母親が妊娠していると気付く前に作られ始めているのです。
 全身の病気は些細な虫歯や歯周病から始まります。どんなことがあっても、虫歯は作ってはいけないし、歯周病などの感染は防がなければなりません。虫歯を作らない様にするにはどうしたらよいのでしょうか。それには自然で大宇宙と共鳴した生活を送ればよいのです。自然でなくなっている環境の中では、妊娠中の母親の食生活や環境から注意していかなければいけません。母胎の食が極端に偏ったり、甘いものばかり食べていたりすると、その血液は胎児にまで流れその子の体質にも影響を与えるからです。なるべく和食を食べ、すなわち「カタカナ」ではなく「ひらがな」で書ける食べ物を食べることが大切です。パンよりご飯、スープより味噌汁、スパゲッティではなくそばやうどん、みたいな感じです。和食の中でも特に大切なのが納豆や味噌、麹や糠の漬物などの発酵食です。腸内細菌がその人を決める、性格までもが決まると言われています。日々いただく食事の内容やどんなサプリメントを補足するかでもこれからの人生が決まります。食べ物の性質上リンが多い練り物や加工肉などをたくさん食べると硬組織からカルシウムが溶出し骨粗鬆症にもなりますし、虫歯にもなってしまいます。
正しい咬み合わせのためには骨格や姿勢もとても大切です。特に上下第2大臼歯が噛み合う頃の姿勢が悪いと、生涯病気がちになってしまいます。咬み合わせがずれてしまうと重心バランスも狂ってしまうので、身体がゆがむ原因や歯周病を加速させる因子を作ってしまいます。また、舌の動きが悪く自由に動かない舌では歯並びがきれいになりません。もし自由に動かない場合は舌の裏の小帯を切り舌を自由に動かせるようにしないといけません。また足指の使い方が悪く指の形が変形してしまったり、足指で「グー、チョキ、パー」ができなかったりすると、不思議に思うかもしれませんが歯がきれいに並びません。
歯を診るというのは結果で、子供の頃にいろいろ体験して身体を使うことがとても大切です。矯正が必要になるのは、身体の使い方が誤っていたり、今まで使えわないできた部分があったり悪習癖の存在で歯がきれいに並ばないのです。
食や姿勢、力、いろいろ書きましたがその方がいる場、生活する場も大切です。電磁波なども身体を歪める原因となるからです。時代が流れどんどん凄まじく環境や生活スタイルが変わっていく中で、どのように環境に適応していくかも考えなければなりません。
人が生活する場、更には心のあり方、感情の開放の仕方までをも見直す必要があります。
 すべての病気や感情と歯は関係し全身と密接につながっています。ちょっと極端かもしれませんが私の恩師が歯科医師への講習会で話していた「総合病院の院長は歯科医師がやるべき」*という時代が統合医療の発展とともに現実化していくことを期待しています。

*実際は総合病院の院長は医師がやるべきですが、我々歯科医師に対する講習会で歯科医師は感染を防ぐことで免疫をあげ、咬み合わせを整えることで全身の骨格を正し、正しい栄養を選択する知識を普及することで栄養学を伝えることが指名であるということを恩師は伝えたかったのだと今になって感じております。その意志に追従すべく臨床をさせていただいております。