12 虫歯から始まる全身の病気

 今回は「虫歯から始まる全身の病気」という本のご紹介をしながら、口腔環境についてお話致します。この本は1920年代アメリカの歯科医師ウェストン・プライス博士の25年にもわたる研究の成果が包み隠されていたことを知った、のちの歯科医師ジョージ・E・マイニー先生が奮起し自費出版されたものです。その日本語版を私の恩師である歯科医師片山恒夫先生が監修された本でもあります。この本には「隠されてきた歯原病の実態」というサブタイトルがついています。実は今でもごく僅かな人にしか知られていない歯科根管治療後の話を記したものです。まず初めに、身体の外と中の境界線についてお話しします。外界と接する大部分を占める皮膚では、角化した角質により内部が守られているので、例えば砂遊びをしても皮膚に傷が無い限り皮膚から感染することはあまりありません。これは皮膚がバリアーの役目をしていて、マクロな意味での身体の外と中は行き来が出来ないようになっているからなのです。また粘膜で覆われている口腔内では歯はエナメル質という硬い組織によりマクロな意味でのバリアーがなされています。(ミクロな意味ではエナメル質も液体の移動が可能な程度の透過性を持ち、砂糖の摂取により細菌が体内に引き込まれるのです。) しかし虫歯になり神経の管の末端が入り込んでいる象牙質が露出すると、お口の中の細菌が容易に身体の中へ入っていってしまう環境が出来上がってしまいます。その状態は怪我をして皮膚から骨が見えているのと同じようなものなのです。その傷の中に砂遊びをして砂が入ってしまう状態と一緒なのです。これは感染に最大限の注意を払わなければならないということを意味しています。また、歯は歯茎から顔を出していますが、歯茎に炎症が起きるとそこからも感染し易くなります。歯を磨いていて出血するということはそういう状態で、細菌感染を引き起こし、そのまま放置すると細菌は血管の中に入り全身を巡ることになります。最近の研究では動脈硬化の血管の肥厚した部分に口腔内の細菌が付着していることや、腎臓や心臓にも口腔内の細菌が感染していることがわかってきています。プライス博士は、感染がおこると血中のカルシウム濃度や尿酸値、血糖値、その他の値が変化すると、記しています。リウマチや慢性の関節炎で杖を使わなければ生活できなかった人の感染源である歯の根を抜くと、関節炎が治り杖の使用なしで歩けるようになったとも記されています。すべてではないかもしれませんが、これらのことからも原因不明の病気の中には、「実は歯が原因だった」ということもあるかもしれません。歯は髪の毛1本をも識別できる程のとても繊細な感覚器官です。歯を触ったり、削ったりすることや治療で痛みを伴うことは多くの人にとっては不快なので歯科治療は敬遠されがちです。また意識のある中で、自分では見ることの出来ない身体の内部を他人に見せ、口を開いているという無防備な状態で身を委ねることは、自らの心のバリアーを取り去るための医患の信頼関係が必要なのです。 ヒトは、歯は身体の中で一番触られたくない部分、言い換えると一番大切な部分だということを本能的に知っているのです。だからこそ一生自分の歯で美味しいものを美味しく頂けるよう普段から歯科を含む身体のメインテナンス、心のメインテナンスをし、健康に留意していきたいものです。