前回は歯科の中での二大疾患、虫歯と歯周病についてお話ししました。今月は、三つ目の疾患として「顎関節症」についてお話ししたいと思います。
顎がカクカク鳴るとか、顎が痛いとか、お口が開かないという症状をお持ちの方はいらっしゃるでしょうか。それが顎関節症です。
顎関節は左右の耳の前方に位置します。手で触れながらお口を開けると、骨が動いていることがわかると思います。頭の骨(側頭骨)と下あごの骨(下顎骨)との間には、関節円板というものがあり、複雑な動きにあわせてそれが円滑に動くことで、私たちは、お口を開けたり閉めたり、左右に動かしたりと自由で滑らかな動きができるようになっています。関節円板は骨と骨の間にあり、顎の動きに対してクッションのような役割をしています。その連動性が無くなると、音や痛みが出始め、顎関節症が発生します。
かみ合わせのズレや 身体の歪みが原因に
顎関節症の原因は、歯のかみ合わせのズレです。歯のかみ合わせのズレは、歯そのものがかみ合わないものと、身体の歪みが大きくなることによって起こるものがあります。
昭和から平成に入り、私達の周りの環境が大きく変化することにより、後者の原因が多くなってきたように感じます。身体の歪みが大きくなった原因には次のようなことが考えられます。
まずは、食事です。
昭和の食卓には、かみ応えのある自然な食材が多く並び、日本の主食お米を食べていたことにより身体の中心力が整い、身体の歪み、痛みはあまりなかったと思われます。最近の日本の食事は軟らかくかみ応えの無い物が多くなりました。糖分も多く、洋食中心となり、外来のものや乳肉製品、精白された加工食品などを過剰に摂るようになってしまったのです。そのため、栄養の面からも、かみ応えの面からも、中心力は損なわれ身体の歪みは大きくなりました。
子ども任せはメニューが偏る
さらに考えられることがあります。子どもの頃からの食事は、親から与えられ決定づけられることが大切であり基本です。しかし、親がしっかりとした栄養の知識を持たずに「今日は何が食べたいの?」と子どもに聞いて、メニューを決めていることが多くなると、子どもの頭の中にある数少ないレパートリーの中では、当然、偏りが生じてしまいます。また、親の嫌いな食材が食卓に並ばないということのないように注意することが必要なのです。
日本の医療は西洋医学中心で、悪いものは排除するという考え方があり、他科の診療科による臓器摘出などの外科手術が行われるために、人間がバランスを取ろうとする代償作用として、他の部位の歪みを作ることもあると思われます。
更に、生活環境が和式から洋式になり電気製品の発達も加えられたことにより、日本人のもっている骨格構造自体に変化がでてきたように感じます。
私が感じる傾向として、男性と女性では歪みが生じても、比較的男性の場合、筋肉で支えられているため身体や顎関節に症状が出にくく、女性の方が身体や顎関節その他様々な部分に症状が出やすいようです。長い間、顎関節に歪みを受け続けていると、骨が変形したり、円板がすり減ったり破損したり、修復が難しくなってしまいます。
いつもカクカク音が鳴ることに慣れっこになっているかもしれませんが、痛みがなくても精査することをお薦めします。鏡を見てゆっくり大きくお口を開けてみてください。下顎が真っ直ぐ綺麗に開けられない場合は、顎関節症の予備軍です。