[113]三つ子の魂百まで

 昔は公園にジャングルジムや雲梯がありましたが、最近は見かけなくなったと思いませんか。子どもたちが怪我をしてしまうと、危険な遊具として排除されることが多いようなのです。本来このようなことはあってはならないと思います。子どもは環境や発育状況によって、適応しながら成長していくものだからです。
たとえば、どのように身体の体勢を変えれば、ジャングルジムの頂上まで登れるのか。金属パイプの骨組みに存在する空間に身体が入るのかなど、瞬時の判断を積み重ねるなかで、子どもはいろいろな感覚をマスターしていくのです。また雲梯にぶら下がって、手指、手首、肘や肩の関節にある程度の負荷をかけることで、ストレッチの効果も生じます。ただし雲梯が危険だと認識されているのは、小学校の生徒が「はい!」と手を挙げただけで骨折してしまったという事例があるからかもしれません。

重心に対してバランスよく

 ではなぜ挙手するだけで、骨折してしまうのでしょうか。飽食といわれる日本でも必要な栄養が行き届いていないこと、また生後から3才までの成長過程でさぼってきてしまったことなどが理由に挙げられるかもしれません。まず、母乳を飲んでいないこと。おっぱいを飲むことで、赤ちゃんの唇や舌の協調した筋肉トレーニングになりますが、お母さんの健康状態によっては母乳での育児が難しい場合もあります。しかし、それほど吸わなくてもドバドバと出てくるほ乳びんでは、この筋トレができません。また乳児を見守る生活環境にも原因があります。首が据わる前の赤ちゃんを立ててしまう際には、重力の向きが寝てるときと変わるので、おんぶやだっこの際には頭をしっかり支えないと、頸椎が骨折、変形してしまうのです。とくに頸椎2番は、かみ合わせの中心軸なので、おんぶやだっこの際に赤ちゃんの頭が目いっぱい後ろに倒れてしまわないよう、しっかりサポートしてあげなければいけません。また昨今はお年寄りの転倒防止、また車椅子でもスムーズに動けるようにと家もバリアフリーとなっており、そういった障害が少ない場所で赤ちゃんがハイハイをします。ハイハイすることで、上肢では手首の力加減やバランス感覚が育ち、肘や肩の安定、さらには肩甲骨のストレッチにもなります。また膝をつくことによって、下肢は歩行の準備段階に入っていきます。その際に一番大切なのは、足首と足指に、ある程度の負荷をかけること。最初のうち、赤ちゃんは足の指が伸びた状態でハイハイをしますが、次第に指が反り返るような体勢を取ります。こうすることで足の裏の腱が伸び、実際に立ったときにバランスを保てるようになります。ハイハイから高ばいの時期が大変重要で、足指や足首、膝や股関節のストレッチをマスターしないで立つと、身体が脆くなる要素となってしまうのです。「三つ子の魂百まで」とよくいわれますが、本当に3才までの発育が大切です。馬は生まれてすぐに立ち上がりますが、人間は数ヶ月から1年のうちに重力を無意識に感じながら、立つ感覚を養います。筋肉と脳とで重心のバランスを訓練します。この感覚は筋トレをいくらしても、養うことはできません。怪我のないように親の監督管理下で、感覚を刺激する危険ぎりぎりの体験をすることが必要かもしれません。

当医院では、現在脳科学で感覚の育成に効果的と証明されている凹凸を床に敷き、子どもから大人まで裸足で足指と脳のバランスをトレーニングしていこうと考えています。重力に対してバランスをとる身体のシステムが働き、さまざまな症状が消え、健康へ導くことができます。噛み合わせの調整でもこのバランスはとれますが、その前に実践すると効果的と考えております。